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レディー・ガガも愛用　かかとのない靴、その誕生秘話

　靴の常識を取り払った「かかと」のない靴。舘鼻則孝さんは米国の歌手、レディー・ガガも愛用した、かかとのない厚底の「ヒールレスシューズ」を作っている。2010年から12年まで、25足もの靴をガガに提供、足を長く美しく見せてきた。ヒールレスシューズは、高いものでは1足200万円以上もする究極の美しい靴だ。その誕生秘話は？

ヒントは花魁の高下駄
小柄なガガが愛用した舘鼻さんのヒールレスシューズ。はくと、つま先立ちになるので背筋が伸びて足がきれいに見えるという。ガガは「ノリタカシューズ」と呼んだという。

　靴の象徴である「かかと」を取り払ったことで、欧米人に驚かれ、「ヒールレスシューズ」と呼ばれるようになったというが、舘鼻さんの発想の原点は、江戸の花魁（おいらん）の高下駄（たかげた）のように底の厚い靴を作りたかったことにある。

　母が人形作家という舘鼻さんは「好きなものや欲しいものがあるなら自分で作りなさい」と教えられ、おもちゃや洋服を作って育った。ファッションデザイナーを志して東京芸大に入り、染織を学ぶうちに、花魁に興味を持ち、浮世絵を研究するようになった。「女子高生のルーズソックスやメイクのように、花魁もストリート的な要素があり、当時のファッションリーダーだったのでしょう。高下駄やかんざしで飾り、どれだけお客さんがついて人気があるかを競う。アバンギャルドな要素があって面白いと思ったんです」

　伝統を自分なりに昇華させたいと、2010年の卒業制作では花魁の高下駄をモチーフに、ピンクのエイ革を使ってヒールレスシューズを作った。高下駄と革のブーツを融合した大胆な発想。だが、その奇抜なセンスに担当教授は「僕には分からないから、友達に聞いてくれ」とつぶやいた。

ガガのスタイリストから来た返事
　この卒業制作のシューズで自分を売り込もうと、欧米の雑誌社やスタイリスト、ファッションデザイナーなどのサイトを調べて、英語のメールに画像を添付して送り込んだ。100通以上送ったところ、返事は3通。そのうち1通がガガの専属スタイリストからだった。

　ガガは数日後に日本の音楽番組に出演するが、ヒールレスシューズをはきたいということだった。色はピンクではなく、黒が希望だった。靴のサイズを聞き、黒の牛革で2日ほどで仕上げたところ、気に入られ、注文が相次ぐようになった。ガガは「ノリタカシューズ」と呼んでくれ、愛用した。

　「模様を入れないで」「底の高さ40センチぐらいで」などのリクエストもあり、タイトなスケジュールの中でシューズを作り続けた。ガガが来日した時、出演する音楽番組を見学に行った。ボディーガードに止められたが、名乗るとガガが制してくれ、ハグされた。その時は「足首をもっと細くして」と言われた。

　「ガガは埋もれるほど、小柄なのに、すごいオーラがあった。だからこそ、高い靴を必要としてくれたんですよね」

　20代でガガが愛用した靴を生み出したとして有名になり、テレビや雑誌で注目されるように。「握手してとか、一緒に写真撮ってとか言われて、芸能人の友達もできました。ちやほやされて、自分を芸能人みたいに勘違いしてしまったのが若い頃で良かった。あのまま勘違いしていたら、ルーチンでヒールレスシューズを作って、遊び暮らす感じになっていたかもしれない」

　だが、自分の中に迷いもあった。聞かれることはいつも「ガガの靴」のことばかり。「活躍の場を与えてもらえたのは良かったけれど、本当にやりたいことは何だろうと思い悩みましたね。だからこそ、命をかけて精力を注いで展覧会をやって作品を作り、モチベーションを高めているんですよ」と新たな創造に挑み続けている。
　「和巧絶佳展」に出品した新作「Descending　Painting　Series」（20年）は、雷と雲を斬新に描いた絵画作品だ。「雲は生と死、あの世とこの世の境界線なんです。『来迎図』を現代に表現した」という。

美しさへのこだわり
　舘鼻さんのヒールレスシューズは革に友禅染の技法で伝統的な文様を配すなど、東西、新旧の技法を融合している。「和巧絶佳展」では、ガガへ送った最初の1足と同じモデルの黒い牛革のヒールレスシューズ（14年）も並ぶ。

「水晶の塊のように見せる」
　美へのこだわりを聞いた。17年のヒールレスシューズは緑に染めた牛革にエンボス（凹凸）加工をして、そこに浮世絵でも使われた雲母をすり込んで金彩の七宝柄を施している。