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https://mainichi.jp/articles/20201225/dde/018/070/020000c

ソング・トゥ・ソング　関係性、極まった美学で

この監督独特の映像文法と語り口、今作は極まった感がある。もはや「テレンス・マリック」というジャンルにくくったほうがいいかもしれない。好きな人は絶賛し、それ以外の人には理解不能。いや、何はともあれ映画に身を浸せば、唯一無二のマリック体験が待っている。

　登場するのは、大物音楽プロデューサーのクック（マイケル・ファスベンダー）、彼が目をかけるミュージシャンのＢＶ（ライアン・ゴズリング）、元受付係でギタリストのフェイ（ルーニー・マーラ）。３人の三角関係を軸に、ウエートレスのロンダ（ナタリー・ポートマン）、裕福なアマンダ（ケイト・ブランシェット）やフランス人のゾーイ（ベレニス・マルロー）が加わって、男女がもつれ合う。

　とはいえ、分かりやすい恋愛映画を期待してはいけない。物語は細分化され、時間や場所の連続性を欠いた断片がコラージュのようにつなげられる。音楽が重なり独白がかぶる。カメラは縦横に人物にまつわりついて、激しい動きに映像酔いしそうだ。官能的な場面と美しい自然の風景が挿入されて、人間の営みと対置される。

　登場人物紹介とか起承転結といったお約束は忘れよう。３人以外の人物は、唐突に現れていつの間にか消える。マリック監督は筋立てを理解して味わってもらおうとは考えていないようだ。共感とか感動といった観客サービスを振り切って、独自の世界に耽溺（たんでき）する。最初から最後まで思わせぶり。

　だが混乱しながらでも映画を追い続ければ、場面ごとに移ろう関係性の危うさがオリのように積み重なって、神々しいラストシーンにたどりつく。そこには虚飾と欲望、エゴと孤独、打算と真実の愛といった主題が浮かび上がるだろう。２時間８分。東京・新宿シネマカリテ、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。

　音楽業界で成功を追い求める者と大物プロデューサー、快楽的なセックスと本物の愛など、俗っぽい題材でも謎のありがたみが生まれてしまうあたり、巨匠の作家性の強さを感じる。みずみずしさと危うさを併せ持つマーラをはじめ豪華な俳優陣の好演をもってしても登場人物たちの切実さが伝わってこなかったのは、ドラマよりもマリックのスタイルが先行しているからかもしれない。自然光を生かした美しい映像、青臭さを漂わせる詩のような独白など、どこを切り取っても監督の刻印が押された作品であることは間違いない。

　エマニュエル・ルベツキ撮影監督がハリウッドに進出した１９９０年代初め、日本ではぶれが目立たないカメラを自由に動かすメキシコ人と評判だった。今やマエストロだが映像文体は変わらない。現場でマリック監督は「思い切りやれ！」と叫んでいたというが、ルベツキもカメラを「思い切り」動かした。レンズは画面の四隅が欠けた魚眼から広角系。人物は普通の大きさでも背景はゆがみ小さく見える。ホテルの別れ話、ベッドを挟んだ窓側の小さいフェイと手前のクックの大きさの差。動きの間を抜く編集で構図が鋭く見えるのも狙いか。

どういう事なん？