新型コロナウイルス(ＣＯＶＩＤ－１９)に感染したいんだけど、どうすれば感染できるの？

https://digital.asahi.com/articles/ASN4N6791N4JTNAB012.html

「日本一健康な産地」に復興　口蹄疫10年、宮崎はいま

畜産県・宮崎で猛威を振るった口蹄疫（こうていえき）の発生から、20日で丸10年。養豚業を営む香川雅彦さん（62）=川南町=は、すべての豚が殺処分された経験をバネに、地域ぐるみで病気を抑え込む仕組みづくりに挑んだ。
「ピンチをチャンスにかえる」。努力は実り、一帯は衛生度の高い養豚産地として復興を遂げた。
2010年5月、香川さんは1頭の豚の鼻に水疱（すいほう）を見つけた。「とうとう来たか……」。ウイルス性の家畜伝染病・口蹄疫だった。
ウイルスは農場内に瞬く間に広がった。生後間もない子豚が感染した母豚の乳を飲み、口の中に水疱ができた。多くの豚が次々に倒れていく。「地獄のようだった」
手塩にかけて育てた8200頭は、3日と経たずに殺処分された。廃業も頭をよぎった。それでも、従業員のくらしを支えなければならない。再開に向けて農場の清掃や消毒を続けた。
「ここから日本で一番健康な養豚産地をめざしませんか」。町内で16万頭超の豚の殺処分が終わった6月下旬、農場の管理獣医師から提案された。「豚がいない今なら病原体もいない」という逆転の発想だった。
口蹄疫の終息宣言が出たのは8月。それを待たず、同業者らとともに「日本一クリーンな畜産地帯」をめざした。香川さんの農場では、3日以内に他の農場を訪れた人の立ち入りを禁止。出入りする人は全身をシャワーで洗い、殺菌した作業着や長靴を身につけた。
口蹄疫対策はもちろん、全国の農家が悩む豚繁殖・呼吸障害症候群（PRRS）とオーエスキー病（AD）への対応も始めた。町内を中心とした約60戸の農家が豚を仕入れる際にはPRRSとADの「陰性証明書」の提出を義務づけた。数週間後に血液検査をし、感染がないか徹底して調べた。
病気を持っていない豚を確保するため、一部の肥育農家は仕入れ先が東北や関東に限られ、輸送費が増えた。「協力してくれたのに赤字になるのは見過ごせない」。香川さんは繁殖専用農場を建設し、JAを通じて子豚を地域に供給できる流通システムをつくった。
口蹄疫の被害を「まさに青天のへきれき」としつつ、「関係が薄かった畜産農家の交流が深まった上、地域の防疫意識が向上したのはプラスだった」と振りかえる。一連の取り組みが評価され、香川さんの会社は全国の農家を表彰する17年度の農林水産祭畜産部門で最高の天皇杯に輝いた。
農場を再開させた10年11月、敷地に石碑を建てた。殺処分された豚たちへの弔いの思いを込め、彫った言葉は「豚魂碑」。神主を招いてのおはらいは、昨秋で10回を数えた。手を合わせるたび
再開後の初出荷の日に「お祝いだ」と喜ぶ従業員たちの姿を思い出す。いま育てている豚は、1万頭を超えた。
新型コロナウイルスの感染が拡大する今、従業員22人を交代勤務にしてしのいでいる。「豚と違い、対象は人。より恐怖感は強い。感染症とたたかった経験を生かし、従業員一丸となって乗り切りたい」（高橋健人）
口蹄疫は牛や豚などに感染するウイルス性伝染病。感染力が強く、高熱が出たり、大量のよだれを垂らしたりする症状が出る。
2010年4月20日、宮崎県都農町で1例目が確認された。感染は5市6町（292例）に広がり、殺処分された牛や豚の数は29万7808頭。5月に非常事態宣言が出され、徹底した消毒のほか、イベントや集会が延期されるなど地域社会にも影響が出た。
発生から約4カ月後の8月27日、当時の東国原英夫知事が終息を宣言。11年に牛と豚の飼養頭数は約102万頭まで落ち込んだが、19年には口蹄疫前の9割近い約110万頭まで回復した。
口蹄疫の教訓を伝えるため、12年8月に高鍋町の県農業科学館に「口蹄疫メモリアルセンター」が開設された。発生から終息までの流れをまとめたパネルなどを展示している。